虫歯菌はうつるって本当?:感染のメカニズムと予防法を科学的に解説

はじめに
「むし歯は感染症である」と聞いて、驚く人も多いのではないでしょうか。実は、むし歯を引き起こす細菌は、人から人へと感染するのです。生まれたばかりの赤ちゃんの口の中には、むし歯菌は存在しません。では、いつ、どのようにしてむし歯菌に感染するのでしょうか。そして、感染を防ぐことはできるのでしょうか。この記事では、むし歯菌の感染経路、感染しやすい時期、そして効果的な予防法について、最新の歯科医学の知見に基づいて詳しく解説していきます。家族を守るために、ぜひ知っておきたい重要な情報です。
むし歯菌とは
ミュータンス菌
むし歯の主な原因菌は、ミュータンス連鎖球菌(通称:ミュータンス菌)です。この細菌は、糖分を餌にして酸を産生し、歯のエナメル質を溶かします。
ミュータンス菌には複数の種類があり、その中でもストレプトコッカス・ミュータンスが最も強力なむし歯原因菌とされています。
ラクトバチラス菌
ラクトバチラス菌も、むし歯の進行に関わる細菌です。既にできたむし歯の穴の中で繁殖し、むし歯をさらに深く進行させます。
口腔内フローラ
私たちの口の中には、数百種類の細菌が共存しています。この細菌叢を口腔内フローラといいます。
むし歯菌がいても、他の細菌とのバランスが取れていれば、必ずしもむし歯になるわけではありません。しかし、むし歯菌の比率が高いと、むし歯のリスクが大幅に高まります。
むし歯菌はどうやってうつるのか
唾液を介した感染
むし歯菌は、主に唾液を介して感染します。感染経路として最も多いのが、母親から子どもへの垂直感染です。
具体的には、以下のような行動で感染が起こります。
食べ物の口移し
親が噛んだ食べ物を赤ちゃんに与える行為は、直接的にむし歯菌を移すことになります。かつては当たり前に行われていましたが、現在は避けるべき行為とされています。
同じスプーンや箸の共有
親と子どもが同じスプーンや箸を使うことも、むし歯菌の感染経路になります。大人が味見をしたスプーンで赤ちゃんに食事を与える行為も同様です。
キスによる感染
頬やおでこへのキスは問題ありませんが、口へのキスは唾液を介してむし歯菌が移る可能性があります。
特に、親がむし歯や歯周病を抱えている場合、口の中のむし歯菌の数が多く、感染リスクが高まります。
コップの共有
同じコップで飲み物を飲むことも、感染経路の一つです。家族間でも、できるだけ各自のコップを使うことが望ましいです。
感染の窓と呼ばれる時期
生後19か月から31か月
むし歯菌の感染が最も起こりやすい時期があります。それが、生後19か月(約1歳半)から31か月(約2歳半)の期間で、「感染の窓」と呼ばれています。
この時期は、乳歯が生え揃い、離乳食から普通食への移行が進む時期です。様々な食べ物を口にするようになり、親との食事の共有も増えるため、感染のリスクが高まります。
感染の窓を乗り越える重要性
この時期にむし歯菌の感染を防ぐ、または遅らせることができれば、将来のむし歯リスクを大幅に減らすことができます。
研究によると、3歳までむし歯菌の感染を遅らせることができた子どもは、その後もむし歯になりにくい傾向があることが分かっています。
親ができる予防策
親自身の口腔ケア
子どもへの感染を防ぐために最も重要なのは、親自身の口の中を清潔に保つことです。親の口の中のむし歯菌の数が少なければ、たとえ感染経路があっても、子どもに移る菌の量は最小限に抑えられます。
定期的な歯科検診、むし歯の治療、毎日の丁寧な歯磨きとフロスで、親自身の口腔環境を整えましょう。
食器やカトラリーの個別使用
子ども専用の食器、スプーン、フォーク、コップを用意し、大人のものと区別します。調理の際の味見も、別のスプーンを使うように心がけましょう。
口移しをしない
どんなに便利でも、食べ物の口移しは避けましょう。食べ物を小さく切る、柔らかく調理するなど、他の方法で対応します。
キスの仕方に配慮
愛情表現としてのスキンシップは大切ですが、口へのキスは避け、頬やおでこへのキスにしましょう。
歯磨きガーゼやフロスの共有を避ける
子どもの歯を磨く道具も、個別のものを使用します。
過度な神経質は不要
バランスが大切
むし歯菌の感染を完全に防ぐことは、現実的には不可能です。日常生活の中で、ある程度の接触は避けられません。
重要なのは、完璧を目指すことではなく、できる範囲で予防策を講じることです。過度に神経質になりすぎると、親子のコミュニケーションや愛情表現に支障が出る可能性もあります。
総合的な予防が重要
むし歯菌に感染したとしても、適切な口腔ケアと食生活の管理により、むし歯を予防することは十分可能です。
子どものむし歯予防
早期からの歯磨き習慣
歯が生え始めたら、歯磨きの習慣をスタートしましょう。最初は、ガーゼで拭く程度から始め、徐々に歯ブラシに慣れさせます。
フッ素の活用
フッ素入り歯磨き粉の使用や、歯科医院でのフッ素塗布により、歯を強化し、むし歯菌の活動を抑制できます。
糖分の管理
むし歯菌の餌となる糖分の摂取を管理することも重要です。甘いお菓子やジュースは、できるだけ控え、与える場合は時間を決めて短時間で食べ終わるようにしましょう。
定期的な歯科検診
子どもが1歳頃になったら、歯科検診を始めましょう。専門家のチェックとアドバイスを受けることで、早期にむし歯を発見し、予防することができます。
大人同士の感染
パートナー間の感染
むし歯菌は、大人同士でも感染する可能性があります。特に、キスやコップの共有などを通じて、パートナー間で感染することがあります。
ただし、大人の場合、既に口腔内フローラが確立されているため、新たな細菌が定着しにくいという特徴があります。
予防策
パートナー間でも、歯ブラシや歯磨きコップは個別のものを使用しましょう。また、お互いに口腔ケアを大切にすることで、感染リスクを減らせます。
むし歯菌の検査
唾液検査
歯科医院では、唾液を採取してむし歯菌の数を測定する検査を受けることができます。この検査により、自分のむし歯リスクを客観的に知ることができます。
妊娠中や子どもが生まれる前に、親が検査を受けて対策を講じることも推奨されています。
定量的な評価
むし歯菌の数が多い場合は、より積極的な予防策や治療が必要になります。逆に、少ない場合は、その状態を維持するためのケアを続けます。
感染を恐れすぎない育児
スキンシップの重要性
むし歯菌の感染を恐れるあまり、子どもとのスキンシップを控えすぎることは、子どもの情緒発達に悪影響を及ぼす可能性があります。
頬やおでこへのキス、抱きしめる、手をつなぐなど、唾液を介さないスキンシップは積極的に行いましょう。
バランスの取れたアプローチ
できる範囲で予防策を講じつつ、過度に神経質にならないバランスの取れたアプローチが大切です。
最新の研究動向
プロバイオティクス
最近の研究では、善玉菌を積極的に取り入れるプロバイオティクスのアプローチも注目されています。特定の乳酸菌が、むし歯菌の定着を防ぐ効果があるという研究結果も報告されています。
口腔内フローラの重要性
単にむし歯菌を排除するだけでなく、健全な口腔内フローラを育てることの重要性が認識されつつあります。
まとめ
むし歯菌は、主に親から子どもへ、唾液を介して感染します。特に生後1歳半から2歳半の「感染の窓」の時期が重要です。親自身が口腔ケアを徹底し、食器の共有を避ける、口移しをしないなどの対策により、感染のリスクを減らすことができます。
ただし、完璧を目指す必要はありません。できる範囲で予防策を講じつつ、子どもとのスキンシップや愛情表現も大切にするバランスが重要です。
むし歯菌に感染したとしても、適切な歯磨き、フッ素の活用、糖分の管理、定期的な歯科検診により、むし歯を予防することは十分可能です。親子で楽しく、健康な歯を守っていきましょう。
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