
はじめに
出っ歯や受け口といった歯並びの問題を抱えている方の中には、「親や祖父母も同じような歯並びだから、遺伝だから仕方ない」と諦めている方もいるかもしれません。確かに、歯並びや顎の形には遺伝的な要因が関係していることは事実です。しかし、遺伝がすべてではなく、生活習慣や環境要因も大きく影響していることが分かっています。本記事では、出っ歯や受け口の原因について、遺伝と環境の両面から詳しく解説します。原因を正しく理解することで、予防や治療の選択肢が広がり、将来的な対策にもつながります。お子さんの歯並びが気になる保護者の方にも、ぜひ参考にしていただきたい内容です。
出っ歯と受け口とは
まず、出っ歯と受け口について基本的な知識を確認しておきましょう。
出っ歯は、正式には「上顎前突」と呼ばれ、上の前歯や上顎全体が前方に突き出ている状態です。横から見たときに口元が突出して見え、唇が閉じにくいという特徴があります。程度はさまざまで、軽度のものから、口を閉じることが困難なほど重度のものまであります。
受け口は、正式には「下顎前突」または「反対咬合」と呼ばれ、下の歯が上の歯よりも前に出ている状態です。通常は上の歯が下の歯を覆うように噛み合いますが、受け口ではその逆になっています。顔貌としては、下顎が前に出て見え、しゃくれた印象を与えることがあります。
これらの不正咬合は、見た目の問題だけでなく、咀嚼機能や発音、顎関節への負担など、さまざまな機能的問題も引き起こす可能性があります。
遺伝的要因
出っ歯や受け口の原因として、遺伝的要因は確かに重要な役割を果たしています。
顎の骨格の遺伝
顎の大きさや形、上下の顎のバランスなど、骨格的な特徴は遺伝の影響を強く受けます。親や祖父母が出っ歯や受け口の場合、子どもにも同じような骨格的特徴が受け継がれる可能性が高くなります。
特に受け口は遺伝的要因が強いとされており、家族に受け口の人がいる場合、その子どもが受け口になる確率は高くなります。これは、下顎の成長パターンや上下の顎の大きさのバランスが遺伝的に決定される部分が大きいためです。
歯の大きさや形の遺伝
歯の大きさや形、歯の数なども遺伝します。顎が小さいのに歯が大きいと、歯が並ぶスペースが不足して叢生(歯が重なり合った状態)になったり、前に押し出されて出っ歯になったりすることがあります。
遺伝の影響はどれくらいか
研究によると、不正咬合の原因のうち、遺伝的要因が占める割合は約30パーセントから40パーセント程度とされています。つまり、遺伝だけで歯並びが決まるわけではなく、残りの60パーセントから70パーセントは環境要因や生活習慣が影響しているということです。
このことから、親が出っ歯や受け口でも、子どもが必ずしも同じになるとは限りません。逆に、親の歯並びが良くても、子どもが不正咬合になることもあります。
環境要因と生活習慣
遺伝以外の要因として、日常生活の中でのクセや習慣が、出っ歯や受け口の形成に大きく影響します。
指しゃぶり
幼少期の指しゃぶりは、出っ歯の大きな原因の一つです。指を吸う習慣が長期間続くと、指の圧力で上の前歯が前方に押し出され、下の前歯は内側に倒れ込みます。また、上顎が狭くなることもあります。
3歳頃までの指しゃぶりは発達の一過程として自然なものですが、それ以降も続く場合は注意が必要です。永久歯が生え始める6歳頃まで続いていると、歯並びへの影響が大きくなります。
口呼吸
鼻ではなく口で呼吸する習慣は、歯並びに深刻な影響を与えます。口呼吸をしていると、常に口が開いた状態になり、舌の位置が正常な位置(上顎に軽く触れている状態)より下がります。
舌は本来、上顎を内側から押し広げる役割を担っていますが、舌の位置が下がるとこの機能が失われ、上顎が狭くなります。また、頬の筋肉からの圧力が強まり、歯列がさらに狭くなって出っ歯になりやすくなります。
口呼吸の原因には、アレルギー性鼻炎や扁桃腺・アデノイドの肥大などがあります。これらの問題を治療することで、口呼吸が改善し、歯並びへの悪影響を防ぐことができます。
舌の癖
舌で前歯を押すクセ(舌突出癖)も、出っ歯の原因になります。飲み込むときや話すとき、無意識に舌で前歯を押していると、持続的な力によって歯が前方に移動してしまいます。
また、受け口の場合も、舌の位置が低い状態が続くと、下顎の成長が促進されて症状が悪化することがあります。
頬杖やうつぶせ寝
頬杖をつくクセやうつぶせで寝る習慣は、顎に持続的な力がかかり、歯並びや顎の成長に影響します。特に成長期の子どもの場合、これらの習慣が顎の歪みや不正咬合につながることがあります。
片側だけで噛むクセ
いつも同じ側だけで食べ物を噛んでいると、顎の成長や筋肉の発達が左右でアンバランスになります。これにより、顔の歪みや不正咬合が生じることがあります。
柔らかい食べ物ばかり食べる
現代の食生活は柔らかい食品が中心で、あまり噛まなくても食べられるものが多くなっています。しっかり噛まないと、顎が十分に発達せず、歯が並ぶスペースが不足して、出っ歯や叢生の原因になることがあります。
早期の乳歯喪失
虫歯などで乳歯を早期に失うと、隣の歯が倒れてきたり、スペースが狭くなったりして、永久歯が正常な位置に生えてこられなくなります。これが不正咬合の原因になることがあります。
出っ歯と受け口で異なる遺伝の影響
出っ歯と受け口では、遺伝の影響の強さが異なります。
受け口は、出っ歯に比べて遺伝的要因の影響が強いとされています。特に骨格性の受け口(下顎の骨自体が大きい場合)は、遺伝的要素が大きく関与しています。家族に受け口の人が複数いる場合、その傾向はさらに強くなります。
一方、出っ歯は環境要因や生活習慣の影響を受けやすいと言われています。遺伝的に顎が小さかったり歯が大きかったりする場合もありますが、指しゃぶりや口呼吸などの後天的な要因で形成されるケースも多くあります。
遺伝と環境の相互作用
重要なのは、遺伝と環境は独立して働くのではなく、相互に影響し合っているということです。
例えば、遺伝的に顎が小さい傾向がある子どもが、さらに口呼吸の習慣を持っている場合、両方の要因が重なって、より重度の出っ歯になる可能性があります。
逆に、遺伝的に受け口になりやすい素因があっても、適切な生活習慣や早期の介入によって、症状を軽減したり、進行を抑えたりすることが可能です。
予防と早期対応の重要性
遺伝的要因がある場合でも、環境要因をコントロールすることで、不正咬合を予防したり、軽減したりすることができます。
子どもの歯並びが気になる場合、早めに小児歯科や矯正歯科に相談することが大切です。特に3歳頃からの定期的な歯科検診で、歯並びや顎の成長をチェックしてもらいましょう。
指しゃぶりや口呼吸などのクセがある場合は、できるだけ早く改善することが重要です。鼻の病気がある場合は耳鼻咽喉科で治療を受け、鼻呼吸ができる状態にします。
よく噛んで食べる習慣をつけることも大切です。硬めの食材を取り入れ、一口30回以上噛むことを意識させましょう。
乳歯の虫歯を予防し、万が一虫歯になった場合も早期に治療することで、永久歯の歯並びを守ることができます。
成人後の治療
すでに出っ歯や受け口が形成されている場合でも、矯正治療によって改善することができます。
軽度から中等度の場合は、歯列矯正で歯の位置を動かすことで改善できます。マウスピース矯正やワイヤー矯正など、さまざまな選択肢があります。
重度の骨格性の不正咬合の場合は、外科的矯正治療(顎の骨を切る手術と矯正治療の組み合わせ)が必要になることもあります。
遺伝的要因が強い場合でも、現代の矯正治療技術によって、多くのケースで改善が可能です。諦めずに専門医に相談することをおすすめします。
まとめ
出っ歯や受け口の原因には、遺伝的要因と環境要因の両方が関係しています。遺伝の影響は約30パーセントから40パーセント程度で、残りは生活習慣やクセなどの環境要因が占めています。受け口は遺伝的要因が強い傾向がありますが、出っ歯は環境要因の影響を受けやすいとされています。親が出っ歯や受け口でも、指しゃぶりや口呼吸などの悪習慣を避け、早期に適切な対応をすることで、子どもの不正咬合を予防したり軽減したりすることができます。気になる症状がある場合は、早めに歯科医師に相談し、適切な時期に治療を開始することが大切です。
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