
はじめに
歯列矯正を検討している方の多くが、マウスピース矯正とワイヤー矯正のどちらを選ぶべきか悩んでいます。透明で目立たないマウスピース矯正は魅力的ですが、「本当にマウスピースだけで歯が動くのか」「ワイヤー矯正と比べて効果は同じなのか」といった疑問を持つ方も少なくありません。実は、マウスピース矯正もワイヤー矯正も、歯を動かす基本的なメカニズムは同じです。しかし、力のかけ方や治療の進め方には違いがあります。本記事では、マウスピース矯正で歯が動く仕組みを詳しく解説し、ワイヤー矯正との違いを分かりやすくご紹介します。矯正方法を選ぶ際の参考にしていただければと思います。
歯が動く基本的なメカニズム
まず、矯正治療全般に共通する、歯が動く基本的な仕組みを理解しておきましょう。
歯は顎の骨に埋まっていますが、直接骨とくっついているわけではありません。歯と骨の間には「歯根膜」という薄い膜があり、これがクッションの役割を果たしています。
矯正治療では、歯に持続的な力をかけることで、この歯根膜に圧力がかかります。圧力がかかった側では骨が吸収され、反対側では新しい骨が作られます。この骨の改造現象によって、歯が少しずつ移動していくのです。
このプロセスは「骨のリモデリング」と呼ばれ、適切な力を継続的にかけることで、歯は計画通りの位置へ移動します。強すぎる力をかけると痛みが増したり歯根が吸収されたりする可能性があり、弱すぎる力では歯が動きません。適切な力加減が重要です。
この基本的なメカニズムは、マウスピース矯正でもワイヤー矯正でも同じです。違いは、どのように力をかけるかという方法にあります。
マウスピース矯正で歯が動く仕組み
マウスピース矯正では、透明なプラスチック製のマウスピース(アライナー)を装着することで、歯に力をかけて移動させます。
段階的な移動
マウスピース矯正の特徴は、最終的な歯並びまでの過程を細かいステップに分割し、各ステップごとに専用のマウスピースを作製することです。
治療開始時に、現在の歯並びから理想的な歯並びまでの移動過程を、コンピューターでシミュレーションします。この過程を0.2ミリから0.25ミリ程度の微細な移動に分割し、各段階に対応したマウスピースを作製します。
患者さんは、1週間から2週間ごとに新しいマウスピースに交換していきます。各マウスピースは、現在の歯の位置よりもわずかに理想的な位置に合わせて作られているため、装着すると歯に適切な力がかかります。
持続的で均一な力
マウスピースは歯全体を覆うため、複数の歯に対して同時に、均一な力をかけることができます。1日20時間から22時間装着することで、持続的に力がかかり続け、効率的に歯が移動します。
新しいマウスピースに交換した直後は、歯とマウスピースの間に若干の隙間があり、この隙間を埋めようとする力が歯を動かします。数日から1週間程度で歯がマウスピースの形に合ってくると、次のマウスピースに交換するタイミングとなります。
アタッチメントの役割
マウスピース矯正では、歯の表面に「アタッチメント」と呼ばれる小さな突起を付けることがあります。これは歯と同じ色の樹脂でできており、マウスピースと歯の間に設置されます。
アタッチメントは、マウスピースが歯をより効果的に動かすための支点となります。特に歯を回転させたり、垂直方向に動かしたりする際に重要な役割を果たします。
取り外し可能な利点
マウスピース矯正は取り外しができるため、食事や歯磨きの際には外すことができます。ただし、効果を得るためには1日20時間以上の装着が必要です。
ワイヤー矯正で歯が動く仕組み
ワイヤー矯正では、歯の表面に「ブラケット」という装置を接着し、そこにワイヤーを通して歯に力をかけます。
連続的な力
ワイヤーは形状記憶合金などでできており、元の形に戻ろうとする力を利用して歯を動かします。ブラケットにワイヤーを固定すると、ワイヤーが真っ直ぐに戻ろうとする力が歯に伝わり、歯が移動します。
ワイヤー矯正では、治療の進行に応じて細いワイヤーから太いワイヤーへと交換していきます。最初は柔らかく弱い力のワイヤーを使い、徐々に強い力をかけていきます。
調整による力の変化
歯科医院での調整時に、ワイヤーを交換したり、ゴムをかけたりすることで、力の方向や強さを変えることができます。通常、月に1回程度の調整が必要です。
調整直後は強い力がかかるため痛みを感じやすく、数日かけて徐々に力が弱まっていきます。
マウスピース矯正とワイヤー矯正の違い
両者の主な違いを項目別に比較してみましょう。
力のかけ方
マウスピース矯正は、比較的弱く持続的な力を均一にかけます。マウスピース全体で歯を包み込むように力をかけるため、ソフトな動きが特徴です。
ワイヤー矯正は、ワイヤーとブラケットを通じて集中的に力をかけます。調整直後は強い力がかかり、徐々に弱まっていくという周期的な力のかけ方になります。
歯の移動速度
一般的に、ワイヤー矯正の方が歯の移動速度は速い傾向があります。特に大きな移動が必要な場合や、複雑な症例では、ワイヤー矯正の方が効率的なことが多いです。
マウスピース矯正は、小さな移動を積み重ねていくため、移動速度はやや遅めですが、痛みが少なく快適に治療を進められるという利点があります。
適応範囲
ワイヤー矯正は、ほぼすべての不正咬合に対応できる万能性があります。重度の出っ歯、受け口、開咬など、難しい症例にも適用できます。
マウスピース矯正は、軽度から中等度の不正咬合に適しています。技術の進歩により適応範囲は広がっていますが、非常に複雑な症例では対応できないこともあります。
見た目
マウスピース矯正は透明なので、装着していてもほとんど目立ちません。人前に出る仕事をしている方や、見た目を気にする方に適しています。
ワイヤー矯正は、金属のブラケットとワイヤーが目立ちます。ただし、セラミックブラケットや裏側矯正など、目立ちにくい選択肢もあります。
取り外しの可否
マウスピース矯正は取り外しができるため、食事や歯磨きが通常通り行えます。ただし、装着時間を守らないと効果が得られません。
ワイヤー矯正は固定式のため、装着時間を気にする必要はありませんが、食事の制限があり、歯磨きに工夫が必要です。
痛みや違和感
マウスピース矯正は、弱い力を持続的にかけるため、痛みは比較的少ないとされています。新しいマウスピースに交換した直後に軽い違和感がある程度です。
ワイヤー矯正は、調整直後に強い痛みを感じることがあります。また、ブラケットやワイヤーが口の中に当たって口内炎ができることもあります。
通院頻度
マウスピース矯正は、自宅でマウスピースを交換していくため、通院は2ヶ月から3ヶ月に1回程度で済むことが多いです。
ワイヤー矯正は、調整のために月に1回程度の通院が必要です。
費用
マウスピース矯正は、症例にもよりますが、60万円から100万円程度が相場です。
ワイヤー矯正は、表側矯正で60万円から100万円程度、裏側矯正では100万円から150万円程度が一般的です。
どちらを選ぶべきか
マウスピース矯正とワイヤー矯正のどちらを選ぶべきかは、以下の要素を総合的に考慮して決めます。
不正咬合の程度と種類、見た目へのこだわり、生活スタイル、予算、治療期間の希望などです。
軽度から中等度の歯並びの乱れで、目立たない方法を希望する場合は、マウスピース矯正が適しています。一方、重度の不正咬合や複雑な症例では、ワイヤー矯正の方が確実です。
最も重要なのは、経験豊富な矯正歯科医に相談し、自分の症例に最適な方法を提案してもらうことです。場合によっては、両方を組み合わせた治療が提案されることもあります。
まとめ
マウスピース矯正もワイヤー矯正も、歯に持続的な力をかけて骨のリモデリングを促すという基本メカニズムは同じです。違いは力のかけ方にあり、マウスピース矯正は弱く持続的な力を均一にかけ、ワイヤー矯正は周期的に強い力をかけます。マウスピース矯正は目立たず取り外しができる利点がありますが、適応範囲はワイヤー矯正より限定的です。自分の症例や生活スタイルに合った方法を、専門医と相談して選びましょう。どちらの方法も、適切に行えば美しい歯並びを手に入れることができます。
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