はじめに
近年、目立たない矯正治療として人気を集めているマウスピース矯正。透明で取り外しができることから、多くの人が関心を持っています。インターネット広告やSNSでも頻繁に目にするため、「自分もできるのでは」と考える方も多いでしょう。しかし、実はマウスピース矯正は誰にでも適用できる治療法ではありません。歯並びの状態や口腔内の環境、生活習慣などによって、マウスピース矯正が適している人とそうでない人がいます。本記事では、マウスピース矯正の適応症例、向いていない人の特徴、そして治療を受ける前に知っておくべきポイントについて詳しく解説します。
マウスピース矯正とは
マウスピース矯正は、透明なプラスチック製のマウスピースを装着して歯を動かす矯正治療です。代表的なものにインビザラインやキレイラインなどがあり、従来の金属製ブラケットやワイヤーを使った矯正とは異なり、目立ちにくく審美性が高いという特徴があります。
治療の流れは、まず歯科医院で口腔内をスキャンし、そのデータをもとに治療計画を立てます。コンピュータシミュレーションで歯の動きを予測し、段階的に歯を移動させるための複数のマウスピースを作製します。患者は約1週間から2週間ごとに新しいマウスピースに交換しながら、少しずつ理想的な歯並びに近づけていきます。
1日20時間から22時間の装着が必要で、食事と歯磨きの時以外は基本的に装着し続けます。取り外しができるため、食事の制限がなく、口腔内を清潔に保ちやすいというメリットがあります。
マウスピース矯正に適している症例
マウスピース矯正は、軽度から中等度の歯列不正に適しています。具体的にどのような症例が適応となるのか見ていきましょう。
軽度の叢生、つまり歯が少し重なり合っている状態は、マウスピース矯正の良い適応症例です。歯が並ぶスペースが少しだけ不足しているケースでは、マウスピースで効果的に歯を移動させることができます。ただし、重度の叢生で大幅なスペース確保が必要な場合は、ワイヤー矯正の方が適していることがあります。
軽度の上顎前突、いわゆる出っ歯もマウスピース矯正で改善できることがあります。前歯が数ミリ程度前に出ている場合、マウスピースで後方に移動させることが可能です。しかし、骨格的な問題がある重度の上顎前突には対応できないことが多いです。
すきっ歯と呼ばれる歯と歯の間に隙間がある状態も、マウスピース矯正の適応症例です。特に前歯の正中離開などは、比較的短期間で改善できることがあります。
軽度の開咬、つまり奥歯で噛んでも前歯が少し閉じない状態も、条件によってはマウスピース矯正で対応可能です。ただし、舌癖などの習癖が原因の場合は、その改善も同時に行う必要があります。
過蓋咬合と呼ばれる、噛み合わせが深すぎる状態も、軽度であればマウスピース矯正で改善できることがあります。前歯の噛み合わせを浅くすることで、より理想的な噛み合わせを実現します。
矯正治療後の後戻りケースも、マウスピース矯正の良い適応です。以前に矯正治療を受けたものの、リテーナーの使用を怠って歯が少し戻ってしまった場合、マウスピース矯正で再度整えることができます。
マウスピース矯正が向いていない症例
一方で、マウスピース矯正では対応が難しい、または向いていない症例もあります。
重度の骨格的な不正咬合は、マウスピース矯正の適応外となることが多いです。顎の骨そのものの位置関係に問題がある場合、歯を動かすだけでは十分な改善が得られません。このようなケースでは、従来のワイヤー矯正や、場合によっては外科的矯正治療が必要になります。
重度の叢生も、マウスピース矯正では対応が難しいことがあります。歯が大きく重なり合っており、抜歯が必要なケースや、大幅な歯の移動が必要なケースでは、ワイヤー矯正の方が確実で効率的です。
歯の回転移動が大きく必要な場合も、マウスピース矯正は不得意です。歯を軸方向に回転させる動きは、マウスピースだけでは十分な力をかけることが難しく、ワイヤー矯正の方が適しています。
上下の顎のずれが大きい場合や、左右非対称が顕著な場合も、マウスピース矯正だけでは限界があります。このような複雑な症例では、より精密な力のコントロールができるワイヤー矯正が推奨されます。
歯の垂直方向への大きな移動が必要な場合も、マウスピース矯正では困難です。歯を大きく引き上げたり引き下げたりする動きは、ワイヤー矯正の方が効果的に行えます。
自己管理能力と治療成功の関係
マウスピース矯正の成功には、患者自身の自己管理能力が極めて重要です。この点で、症例の適応以外にも「向いていない人」が存在します。
マウスピース矯正は1日20時間から22時間の装着が必須です。これを守れない場合、計画通りに歯が動かず、治療期間が大幅に延びたり、最悪の場合治療が失敗したりする可能性があります。食事の度に外し、その後装着し忘れてしまう、外出先で外したまま紛失してしまうといったトラブルも報告されています。
自己管理が苦手な方、忘れっぽい方、ルールを守ることにストレスを感じる方には、マウスピース矯正は向いていません。このような場合は、取り外しができない固定式のワイヤー矯正の方が確実に治療を進められます。
また、マウスピースの洗浄や保管も患者自身で行う必要があります。清潔に保つことを怠ると、細菌が繁殖して口臭の原因となったり、マウスピースが変色したりします。こまめなケアができない方には不向きです。
年齢による適応の違い
マウスピース矯正は基本的に永久歯が生え揃ってから行う治療です。そのため、一般的には12歳から13歳以降が対象となります。ただし、最近では小児向けのマウスピース矯正システムも開発されており、条件が合えば小学生でも治療可能なケースがあります。
成人の場合、年齢の上限は特にありません。60代、70代でもマウスピース矯正を受けている方はいます。ただし、加齢とともに歯を支える骨が弱くなったり、歯周病のリスクが高まったりするため、口腔内の状態が良好であることが前提条件となります。
高齢者の場合、歯周病がある、歯が欠損している、ブリッジやインプラントが多いといった状況では、マウスピース矯正の適応が難しくなることがあります。このような場合は、まず歯周病の治療を行ったり、部分的な治療に限定したりする必要があります。
口腔内の状態による制限
虫歯や歯周病がある場合、マウスピース矯正を始める前にこれらの治療を完了させる必要があります。マウスピースを装着すると、唾液による自浄作用が低下し、虫歯や歯周病が悪化するリスクがあるためです。
重度の歯周病がある方は、マウスピース矯正自体が適応外となることもあります。歯を支える骨が弱っている状態で歯を動かすと、歯がぐらついたり抜けたりする危険性があるからです。まずは歯周病の治療を優先し、口腔内の状態が改善してから矯正治療を検討します。
顎関節症の症状が強い方も、慎重な判断が必要です。マウスピース矯正により噛み合わせが変わることで、一時的に顎関節症の症状が悪化する可能性があります。事前に顎関節の状態を詳しく検査し、治療計画を慎重に立てる必要があります。
歯ぎしりや食いしばりが強い方も注意が必要です。マウスピースが破損しやすくなったり、思うように歯が動かなかったりすることがあります。このような場合は、ナイトガードの併用や、ワイヤー矯正への変更を検討することもあります。
生活習慣との相性
職業や生活習慣によっても、マウスピース矯正の向き不向きがあります。
接客業や営業職など、人前で話す機会が多い方にとって、マウスピース矯正は目立ちにくく理想的です。しかし、長時間の会議やプレゼンテーションが多い場合、慣れるまで発音に影響が出ることがあります。
飲食業やシェフなど、頻繁に味見をする必要がある職業の方は、その都度マウスピースを外す必要があり、装着時間の確保が難しくなる可能性があります。
スポーツ選手の場合、競技中の装着が可能かどうかを検討する必要があります。格闘技やコンタクトスポーツでは、マウスピース矯正用のマウスピースでは保護機能が不十分なため、別途スポーツ用マウスガードが必要になることもあります。
経済的な側面
マウスピース矯正は基本的に自費診療で、費用は30万円から100万円以上と幅があります。治療期間中に追加費用が発生する可能性もあります。経済的な準備ができていることも、治療を継続する上で重要な要素です。
分割払いやデンタルローンを利用できる歯科医院も多いですが、長期的な支払い計画をしっかり立てられることが必要です。途中で治療を中断すると、それまでの費用が無駄になるだけでなく、歯並びが中途半端な状態で固定されてしまう危険性もあります。
まとめ
マウスピース矯正は、軽度から中等度の歯列不正に適した優れた治療法ですが、誰にでも適用できるわけではありません。重度の骨格的な問題がある場合、複雑な歯の移動が必要な場合、自己管理が難しい場合などは、従来のワイヤー矯正の方が適しています。
また、口腔内の健康状態、年齢、生活習慣、経済的な準備なども考慮する必要があります。マウスピース矯正を検討する際は、まず信頼できる矯正歯科医の診察を受け、自分の症例が適応かどうか、また自分の生活スタイルに合っているかどうかを十分に確認することが大切です。正しい判断と適切な治療計画により、美しい歯並びを手に入れることができるでしょう。
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